京都大学の物理の大学院の入試問題を過去眺めてみると、結構高い頻度で 電子回路に関する選択問題が見られる。残念なことに、この問題を選択する人は 非常に少ない。問題の多くは極めて基礎的で、エレキの好きな人なら高校生や 中学生でも簡単にとけてしまうような問題でも、受験生の多くはそれらを避けて しまう。やはり「電子回路は苦手」という意識が学生諸君の間に蔓延しているのに 違いない。
この問題は教官から見るととっても深刻である。実際、実験系の大学院生に 5ボルトの定電圧電源の回路図を書きなさいと尋ね、すらすら出来る人は10人に 1人程度しかない。日常、頻繁に利用しているものの原理もよく知らないわけである。 また、私がよくする質問で、「電話はダイアルできて、向うの話が聞けて、 こちらの話が伝わるんだけど電話線に導線は何本入っている?」というのも あります。
よく考えてみると、電気回路、電子回路という分野は、広い意味で電磁気学の 一分野で、それが進んで工学になった分野という見方もできる。昔の電磁気学の 教科書のいくつかには結構ちゃんとした電気回路の記述がある。やはり マックスウェル方程式を勉強する前にこっちも学んでおいて欲しいと思うわけである。 電子回路という言葉には工学的な色彩が強く、特に、「紙の上で理解しても何も 作れない」という実験的な学問である。「習うより慣れろ」という態度が 重要だと思う。
そこでこの講義の目標は極めて低く設定した。すなわち中学や高校でエレキの 好きな人が普通知っている事を学ぶ。数式も少しは出てこようが、基本的には あまり重要ではない。感じがわかることが重要である。ちょっとした知識 に裏打ちされると電子回路に対するアレルギーは簡単に除去できるはずだし、 電子機器が壊れたらまず開けてみようと言う態度を持つようになって欲しい。 できれば何か、はんだごてを持って製作してみようという気になって欲しいと思う。