2000年度後期・電子回路論
提出作品・成績発表(最終結果)
担当教官 延與秀人
今回は昨年に比べ提出作品数が格段に増え、楽しませていただきました。キットが多いのは少し残念ですが、多くの方が生まれて初めて半田ごてを握った由、本講義の目標は達成されたようです。半田ごてを使う上での重要事項は「使い終わったら電源を切る」ことです。これさえ忘れなければ、何も困ることはありません。
期限を過ぎた提出作品は写真・寸評がありませんのでご容赦ください。
作品寸評
優秀賞:優秀賞はバラの部品を使って作ったものに差し上げます。
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電源回路(製作者、酒井恭輔・小笠原健): 電源回路は電子回路の基本ですので、これを作ってみようと思った発想を評価したいと思います。両者とも専用ICを使っているのでそれほど難しくはなかったと思います。自分でシャーシに組み込むことには物つくりの基本を身につけるのに役立ちます。実際バラ部品から作るのもさほど難しくはありませんが、出力をショートしたときに壊れないようにするにはある程度ちゃんと設計する必要があります。作ったもので今後、回路の実験などやって欲しいです。実用性も高いです。 |
連動コンセント(製作者:大平健司):パソコン本体の電源OFFと連動して周辺機器の電源を切るための回路です。このような「ニーズに基づいた回路製作」は電子回路の基本です。ネット上から製作記事を引っ張ってきて作ったのも良いと思います。本体の電源OFFを感知するための電流センサーが高価だったのではないかと心配です。 |
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マルチバイブレーター(製作者、小河原達也): トランジスタ2石で構成された発振回路。2つのLEDが発振周波数で光る。蛇の目基盤にバラ部品ででくみ上げたところを評価します。見た目は美しくはありませんが、このような発振回路で、CRの時定数とトランジスタのスイッチング動作が実感できます。良い習作だと思います。 |
1石レフレックスラジオ(製作者、佐々木通): 電子回路の好きな子供が、ゲルマラジオの次にトライするのがこれです。私も中学生のとき作りました。高周波増幅と低周波増幅を1つのトランジスタで同時にこなすという、まさに重ね合わせの原理を地で行く回路です。この回路はラジオとしての感度は悪いですが、電子回路の入門としてもAMラジオの仕組みを理解するにも、わかりやすくとてもよいものだと思います。 |
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センサー各種(製作者、青木和也): この方は1回も講義にでなかったのですが、いろいろ自分で作ってみてくれました。講義の始めに言ったように、「電子回路は習うより慣れろ」ですので、このような態度は歓迎します。お湯の沸かしすぎを知らせるセンサーや風呂の水を入れすぎを知らせるセンサー、はたまた鳴らなかったゲルマラジオなど色々楽しんでくれたようです。
1回でも出ていたら「優」にしてあげたのに…。 |
ローパス・ハイパスフィルター(製作者、城戸証): 課題研究がらみで作ったようですが、オペアンプの使い方の習作としてはとてもよいものだと思います。ローパス、ハイパスフィルターは信号処理の基本です。一度発信機とオシロスコープで入出力の信号のリサージュを書かせてみてください。周波数の変化に伴うゲインと位相の周りの関係が実感できます。(もうやっているかな?) |
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・VUメーター(製作者、下野五月): これはキットなので、優秀賞にすべきか悩みましたが、付属の電源を自作してあるようなので、サービスです。むしろ電源の箱を作ったところを評価したいです。VUメーターとは音楽の出力にあわせて振れるメーターで、テープデッキなどによくついているやつです。この作品はデジタルメーターでした。こういうメーターはデシベル表示なので音楽信号を対数圧縮します。またピークホールドもついているので非線形の増幅回路と時定数の長い増幅回路が必要になるのは理解していただけたでしょうか? |
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敢闘賞:キットで作ったものには敢闘賞を差し上げます。提出作品がみんなちゃんと動いているのは感心しました。あたりまえとはいえ、作ったものが動くのを見るのは良いものだと思います。みなさんがパーツ屋に行ってみてくれたことで教官のねらいはほぼ満たされています。
僕が気に入ったのは電子ピアノ(製作者、村島未生)です。入門用キットとしては大変美しいものです。和音が出ないのは残念ですが、和音が出るようにするには結構大変な回路になるのはおわかりになったでしょうか? はんだの必要数も多いので大変だったと思います。これにくらべるとICオルガン(製作者、船津大輔)は見た目が大分落ちます。オルガンといっても鍵盤があるわけでもありません。でもボリュームを回すと音程が変わるので、回路の習作としてはむしろ優れています。RCの時定数を用いた周波数の変化が実感できました? |
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自分の子供に持って帰りたくなったのがメロディクロック(製作者、菅沼亘・成影典之)です。ミッキーマウスの形をしているのも笑えるし、目覚し時計としての実用性もあります。メロディーはIC1つでカバーされています。講義で言ったように、正確な時計を自作するのはかなり大変です。キットなら簡単ですが、奥は深いものです。
面白いのだが、使えないのが嘘発見器(製作者、林和彦)です。いろいろやってみましたが僕のうそは見抜いてくれませんでした。これはセンサーの仕組みを身に付けるのにはよい回路なのですが…
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実用性があって、今後使って欲しいのが導通テスター(製作者、東谷口聡・増田亨・杉山慎也・山本裕樹)です。測る抵抗によって音程が変わるのが実用上大きな意味を持ちます。回路を調べたいときプローブを当てますが、その時、しっかり当てる行為とメーターを見る行為を同時にやるのはしんどいものです。音程が抵抗値を教えてくれるとても助かる場合があります。市販のテスターには大抵導通チェッカーがついていますが、抵抗で音程を変えてくれるものは皆無です。これは測りたいレンジが0Ωから10MΩ程度(7桁以上)に広がっているため避けているのだと思います。実用的には今回のようなもので十分なのです。諸君に絶対音感があると利用可能性は更に広がります。 |
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電子キットとして楽しめたのは、電子オルゴール(製作者、田中孝佳)、電子ゴマ(製作者、高都広大)、イライラ棒(田中孝佳)です。電子オルゴールは部屋の明るさを感知するセンサー連動で、回路としてはなかなか凝ったものです。すこしは中身も理解していただけたのかしら? 電子ゴマは回すと遠心力でスイッチが入ってピカピカ光りながら音が出ます。この遠心スイッチというのが原始的でなかなか笑えます。イライラ棒もおもしろいのですが、作った人がわからなくなってしまいました(乞連絡)。 |
今回も結構大勢の人がラジオを製作してくれました。なんといってもラジオを作るというのは電子回路の入門として優れたものです。高周波と低周波の両方が学べます。残念ながら最近は難しいところがすべてICに入っていて、失敗ということがあまりなくなってしまいました。鳴らないと頑張って調べるのでとても勉強になるのですが… AM/FMラジオ(製作者、吉岡正樹・石田晋太郎)はキットとして珍しく木のフレームで見た目もよいものでした。FMはアンテナ次第で感度が相当変わります。無理にFMアンテナを買う必要はなく、TVアンテナを分配して繋げるだけで相当感度が向上します。これは周波数帯が近いおかげでできることです。AMラジオは2種でした(製作者、米良恵介・板倉周介・船津大輔)。小型AMラジオのなかにはバーアンテナというフェライトの棒に銅線を巻きつけたものが入っているので外部アンテナはさほど重要ではありません。1台、作者不明のものがあるので申し訳ありませんがご連絡ください。 |
以上です。評価は出席回数点(8点満点)と自作店(敢闘賞4点、優秀賞8点)で決まります。 合計が8点を越えると「優」、6〜8点以上が「良」、3〜5が「可」、それ以下が「不可」です。以下に全評価を示します。
それでは、私の京都大学における最後の講義に付き合っていただきありがとうございました。今後は理化学研究所(埼玉・和光市)というところの主任研究員になり、大学の先生ではなくなります。この講義が諸君の将来に少しでもプラスになったことを願っています。提出作品は返却しますので取りに来てください(207号室、内線3871、
[enyo@pn.scphys.kyoto-u.ac.jp] )