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修士論文発表会が開催されました (Presentations of Master’s theses)
2025 年 2 月 3-4 日に、京都大学・物理学第二教室における修士論文発表会が開催されました。
原子核・ハドロン物理研究室からは 7 名発表し、その内 2 名がストレンジネス核物理グループから研究成果を発表しました。皆さん、お疲れさまでした。
岩井 沙彩 (Saya Iwai)
タイトル Title
磁気スペクトロメータ S-2S の高分解能実現に向けた解析手法の研究
日時 Time and data
2025年 2 月 3 日 10:00-10:20
概要 Abstract
ハイパー核の質量やエネルギー構造を調べることで、ハイペロン(ストレンジクォーク(s)を含むバリオン)と核⼦間の(YN)相互作⽤を探求し、⼀般化したバリオン間相互作⽤の理解に迫る。しかし、ハイパー核の実験データが乏しいため理論的な解析に基づく YN 相互作⽤への理解の不定性も⼤きい。JPARC E70 実験では 12C (K-, K+)12ΞBe 反応を⽤いて⽋損質量分布を測定し、ストレンジクォークを 2 つ含むバリオンである Ξ-(ssd) の束縛状態の存否を明らかにするとともに、得られたピーク位置から ΞN相互作⽤の⼤きさを、状態幅から ΞN-ΛΛ 結合の強度をこれまでにない感度で得ることを⽬的とする。磁気スペクトロメータ S-2S と有感標的 AFT を⽤いることで、∆M = 2 MeV/c2(半値全幅、以下分解能に対しては全て半値全幅で⽰す)の⾼分解能かつ 100 事象の Ξ ハイパー核束縛状態の観測という⾼統計を達成する実験である(20 ⽇間 800 k/spill の強度を持つ K− ビームを⽤いた場合)。
S-2S は 2 台の四重極電磁⽯および 1 台の双極電磁⽯(磁⽯系総重量 135 トン)、5 台の⾶跡検出器、3 台の粒⼦識別検出器から構成される。S-2S は 2023 年 6 ⽉から運⽤を開始しているが、その時点における運動量分解能∆p/p の解析値は設計値の 3 倍程度⼤きく、解析上における分解能改善の余地があることがわかった。本研究では、運動量再構成⼿法にルンゲ・クッタ法(RK 法)を採⽤し、設計分解能に向けて解析パラメータの最適化による分解能の改善を⽬指した。まず運動量解析において重要な⾶跡検出器の性能を確認した。検出効率は全ての⾯で 99%以上、固有位置分解能は全ての⾯で 300 um 以下と、⼗分な性能を有していることがわかった。さらに、得られた⾶跡検出器の性能と実際の実験セットアップの詳細に基づいたモンテカルロシミュレーションを⾏い、より現実的な運動量分解能を評価した。1.4 GeV/c の運動量を持つ粒⼦に対して ∆p/p ≃ 8.0×10-4 と⾒積もられ、⽋損質量分解能としては 2.5 MeV/c2となることがわかった。RK 法を⽤いた解析においては、仮定する位置と磁場が現実の状態を再現することが求められる。そこで、位置情報と磁場情報に対して独⽴に系統的な変更を加え、運動量分解能やカイ⼆乗の応答を調べた。位置を変更した場合、運動量分解能は数%改善した。⼀⽅で磁場マップを変更すると 10̶20%改善した。本研究の初期段階では、1.4 GeV/c の運動量を持つ粒⼦に対して∆p/p ≃ 1.68×10−3 であったのが、磁場マップを変更し運動量分解能が最も良い場合で、∆p/p ≃ 1.44×10−3 まで改善することに成功した。⽋損質量分解能では 3.7 MeV/c2 から 3.2 MeV/c2 への改善である。本研究で開発した位置と磁場の調整⼿法を、交互に繰り返し適⽤することや、今後さらに取得するエネルギー校正データ(Ξ や Σ の⽣成等)にも適応することによって、より精度の⾼い運動量解析が実現すると期待できる。
(アブストラクトより抜粋: https://www.scphys.kyoto-u.ac.jp/education/2025_03/R6_03_Phys2_M_Abstract_v2.pdf)
岩本 哲平 (Teppei Iwamoto)
タイトル Title
JLabにおける(e,e'K+)反応を用いた高精度ラムダハイパー核分光実験のトリガー設計
日時 Date and time
2025年 2 月 3 日 10:30-10:50
概要 Abstract
ハイパー核の質量を調べることによってハイペロン-核子相互作用を調べることができる。しかし、ハイパー核の実験データは通常の原子核に比べて非常に乏しい。米国 Jefferson Lab で 2027 年に予定されている Λ ハイパー核分光実験のトリガー設計を行った。
本実験で用いる DAQ の許容レートが 20 kHz であるのに対して、見積もられるコインシデンスレートは高々10 kHz である。しかし、予期しない背景事象が混入して許容レートを上回る可能性を考慮して、我々はグルーピングトリガー (GT) 法を導入した。GT 法とはビーム光学上期待される粒子検出器のヒットの組み合わせをデータ取得の条件とする手法である。信号粒子であるK+の軌道はモンテカルロ(MC)シミュレーションで取得する。また、JLab では実際に使用する検出器やフロントエンドモジュールで宇宙線による試験を行った。本研究では、GT の開発を行い、ラムダハイパー核実験へ向けた DAQ システムの実装開発を進める基礎を構築した。
(アブストラクトより抜粋: https://www.scphys.kyoto-u.ac.jp/education/2025_03/R6_03_Phys2_M_Abstract_v2.pdf)