-アメリカBNLの大型加速器RHICでの大規模実験-

スピンという物理量は粒子の持つ基本的性質の1つであり、例えば核子はスピン1/2を持っています。単純なクォーク模型において核子の様々な性質は3つのクォークの合成により記述され、核子スピン1/2はクォークの持つスピン1/2の3つの合成により簡便に説明されました。

しかしながら実際のところ、核子は多様なクォーク、反クォーク、グルーオンが混ざり合った複雑な構造をしています。そのため単純な模型ではクォークのみで説明された核子スピンに反クォーク、及びグルーオンのスピンが寄与しているのかという疑問があります。この疑問に対して答えを与えたのが偏極深非弾性散乱実験です。これにより核子スピン1/2に寄与しているクォーク(+反クォーク)のスピンの大きさは、全体の約30%程度でしかないということが分かりました。また同時に、この結果は核子中の反クォーク(海クォーク)のスピンが核子スピンを打ち消す向きに寄与しているのではないかということを示唆していました。この発見は人々に衝撃を与え、残りのスピンは残された要素であるグルーオンが担っているのではないかという疑問や、フレーバーSU(3)を用いない海クォークスピンの直接測定の必要性を生み出しました。

米国ブルックヘブン国立研究所で稼働しているRHIC加速器では500GeVという高エネルギーで陽子-陽子衝突を行うことができます。またこの加速器は世界で唯一、加速陽子をスピン偏極させることができる加速器です。そのため、RHIC加速器は陽子中のとても微細なスケールのスピン構造を調べるのになくてはならない実験施設となります。我々はこの加速器リング上にあるPHENIXという巨大実験施設(写真右)で実験を行い、スピンという基本的物理量の謎の解明という目標のもと陽子スピン構造の研究を行っています。このPHENIX実験において我々の研究グループは、ミューオン検出器、電磁カロリメータの開発、さらにスピン偏極実験において要となる偏極度検出器の開発というように、とても大きな役割を果たしてきており、この実験の原動力の1つとしてなくてはならない役割を果たしています。これまでに取得したデータから、陽子中のグルーオンのスピンに関して、これまでに世界中で集められた実験データを合わせたものよりもはるかに強い制限を与える結果を得ることが出来ました。

この先さらに統計を上げることによって、グルーオンのスピンが核子スピンの何%を担っているかを明らかにしていきます。また、海クォークのスピンの直接測定が今まさに行われようとしており、こちらについても世界初の海クォークのスピンの測定結果の報告に向けて日夜頑張っています。

外部リンク>>PHENIX front page