三体核力 〜原子核物理の新しい物質観〜

はじめに

原子核物理学は、約6千種存在する原子核の多様性(物性)を明らかにし、宇宙に存在する物質の成り立ちを解明する学問です。その研究対象は、素粒子であるクォーク・レプトンから、核子(陽子、中性子の総称)で構成される原子核におよびます。 私たちは、核子多体系で現れる「三体核力」を研究対象とした実験研究を行っています。原子核を形作る 核力を理解し、核力から出発して数十、数百、無限数の核子で構成される原子核を記述する道筋を作る事 で、原子核の知見を広く基礎・応用科学に展開することを目論んでいます。 今、「三体核力」を知る事で、原子核物理学の新しい物質観が描かれようとしています。

三体核力(三体力)とは

三つの核子が同時に相互作用する時に働く力を三体核力と言います。理論的には、1957年に発表された藤田・宮沢型三体力などが予言されていました。しかし実験による検証が難しい状況が続いていました。この状況を変えるきっかけとなったのが、我々のグループによる重陽子・陽子弾性散乱の高精度測定による三体核力効果の発見でした(実験は、理化学研究所加速器施設において実施)。以後、三体核力に関する研究は、重陽子・陽子散乱の枠を超え、元素合成の解明に必要な中性子過剰核などの性質,また超新星爆発や中性子星と密接な関わりをもつ高密度核物質へと展開されつつあり 、その重要性が注目を浴びています。即ち三体核力の理解は、未解決の宇宙・天文物理の重要問題と直結しているともいえるでしょう。

三体核力へのアプローチ

重陽子と陽子の散乱~まずは三つの核子系から~

三体核力にアプローチするためには、三つの核子で構成される系が最もシンプル&最適です。重陽子(陽子1個、中性子1個)と陽子の散乱は、三体核力の大きさだけでなく、距離依存性、スピン依存性などのダイナミクスに直接アプローチできると考えられています。我々は、理化学研究所の RIビームファクトリーにおいて、100メガ電子ボルト(MeV)の運動エネルギーをもつ重陽子ビームと陽子との散乱の精密測定を実施し、我々のグループは三体核力の証拠を初めて見つける事に成功しました。この実験は、三体核力の研究は「理論の予測」から「実験と理論による定量的な理解」へと進む足がかりとなりました。

これから三体核力の全貌にせまりたい

「三体核力が決まった先には、どんな物理がまっているのだろう?」そんな思いから、少数核子系散乱の実験と近年研究が進んでいる核力理論( カイラル有効場核力理論)から、三体核力を含む高精度な核力の構築を行うプロジェクトを進めています(JSTERATO関口三体核力プロジェクト,通称: TOMOEプロジェクト)。三体核力の距離、スピン、荷電スピンといったダイナミクスの全貌にせまるためには、偏極実験は欠かせません。我々は、偏極を作る装置(ビーム、標的)と偏極を測る装置を開発&建設をし、それらを用いたユニークな実験を展開しています。

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